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2012年9月23日
vol.97 JA利根沼田 片品村支店(群馬県) アジサイ(前編)
この時期大田市場の仲卸通りを歩いていると、威光を放ちながら店頭に並べられているアナベルやピラミッドアジサイたち。
あまりにも大きな存在感に驚いて、どこからきているのかスリーブのシールを見れば「片品)JA利根沼田」と書いてある。
大田市場の中央通路の展示でも、圧倒的なインパクトを残しているではないか!
おっと、これはウンチク探検隊に新たなるミッションが生まれた気配です。
花ファンの皆さまのためにも、このアジサイがどこでどのように作られているのか、旅に出なくてはなりません!
重要な使命を背負って、ウン探いざ出陣です!
やってきたのは、うん探読者の皆さまならもうお馴染みの“鶴舞う形の群馬県”。
(↑群馬県民なら全員暗唱している「上毛カルタ」)
新幹線で高崎を過ぎて次の駅「上毛高原」。
なるほど、ここは日本でも屈指の温泉メッカか。
と思いきや、目指す場所はここからさらに1時間車を走らせた群馬県利根郡片品村。
ココはどういうところかというと、かの有名な尾瀬の群馬県側の入り口にあたります。
尾瀬は群馬県・福島県・栃木県・新潟県の4県にまたがる湿原で、いわゆる「表玄関口」と言われる群馬県側の入り口があるのが片品村なのです。
今まで片品村をご存知なかったあなたも、片品村は全国的に有名なところだということがお分かり頂けたかと思います!
そう、今回あの威光を放つグリーンアナベルなどのアジサイ類は、ここ片品村にあるJA利根沼田の片品村支店の生産者さんによって作られているのです。
農協名は以前JA片品村だったのですが、農協の合併でこのような名前になりました。
以下「片品村」と呼ばせて頂きます。
ここ片品村の近くには岩鞍スキー場があるほど冬場は雪がドカドカ降る。
「日中でもマイナス10度なんて日はザラにあるんだ。12月下旬から3月下旬くらいまではよく降るよ」
教えてくださったのは、JA利根沼田の星信弘(ほし・のぶひろ)さん。
では、ここで花を生産される方は豪雪をどのように捉えているのでしょうか。
「夏場に農業で稼ぐ我々としては、豪雪にもいいこともあるんだ」
例えばどのようなことかというと・・・
① 土壌が偏栄養になりにくい
雪が溶けていく時に塩分などが流され土壌がキレイになる。
すると、植物体が畑に入れた肥料を偏りなく吸収するから、こちらが期待した通りの効果が出やすい。その分良い品質の物を作ることができるということです。
WOW!ラッキー(≧∇≦)!
さすが高原片品村!
② 連作障害が起こりにくい
①のような理由により、結果連作障害も起こりにくいというわけです。
さすが自然を味方につけた片品村オリジナル農法。
③ 花芽を守る
雪の中に埋もれたアジサイたちは程良い湿度の中、寒さから新芽や花芽を傷めることなく、雪の中で守られる。
これが標高が高くても雪が降らないところだったりすると、寒さにやられてしまうんだなぁ~。
村内は標高700-1,000メートルくらいに生産者さんが点在しているので、それぞれの標高に適した品目を選んで作付しています。
また、同じ品目でも時期をずらしながらリレーして出荷できるため、出荷期を長くできることがメリットです。
まずお邪魔したのは、標高800メートルの高原でアジサイのミナヅキとライムライトを中心に生産される花き生産部会長の星野一郎(ほしの・いちろう)さん。そのほかにもアナベルや秋色アジサイ、スモークツリーなどを生産しています。
こちらはその星野一郎さん。
あ、あれ?どこかで聞いたようなお名前ですが・・・
そうか、銀河鉄道999の主人公が星野鉄郎だったかな。
ココは夜になれば星もきれいに見ることができそうだし、もしかして銀河鉄道999の発着地点て片品村だったのか??
星野さん、星野鉄郎さんとご親戚か何かですか?
「知らない」
あは~・・・^_^;
そうですよねぇ~。唐突に大変申し訳ございません。
夢と現(うつつ)とが混乱しがちな最近のウンチク探検隊を、現実にググッと引き戻してくださいました。
ググッと戻ったところで、アジサイ生産の真髄に迫りましょー!
こちらは星野さんのミナヅキとライムライトの圃場。
“豊満”と形容したくなるほどたわわに花が付いています。
わお~、どれどれ。1輪は何センチくらいあんのかな。
驚異の40セ~ンチ!みなさん、お手元で40センチがどのくらいか測ってみてください。
それを縦にしてみると、40cmの立体の花がどのくらい圧巻か、想像していただけると思います。
アジサイは頭が大きくなると、首を垂れて倒れてしまいます。
その時に花と花がぶつかると、そこに湿気がたまって腐敗の原因になっていまうので、このように花をあっちとこっちとで固定して、ぶつからないようにしています。
これひとつ大事な点ですね!
う~ん、何の仕掛けもなさそうですが、どうしてもこのアジサイを留めているテープが気になる・・・ムム、どうしてでしょう。
星野さん、このテープは普通のテープですか?
「普通のテープじゃないよ」
やはり!キラーン( ̄∀ ̄*)
「生分解するんだ」
生分解するテープ?
世の中、何でも土に還るように開発されているんですね~。スゴイ!
「そうだよ。ほら、最初はしなやかな普通のテープ、これでアジサイの枝をフラワーネットに留める。
このままじっとしていると固くなって、
アジサイを出荷し終わった頃にはパリパリボロボロに砕けるんだ。
最後は下に落ちて土に還るというわけ」
にゃるほどぉ~(≧∇≦)
さすが、持続可能な農業を実現していらっしゃいます!
■潅水は?
アジサイの別名はハイドランジア=「水の器」というくらいですから、アジサイ類は何をとっても水が好き。
潅水は大変だと思いますが、自動で行われたりしているのですか?
「潅水はしてない」
え??
“し、してない”??∑(゜◇゜;)
アジサイは水が好きなのに、水やりをしないってどーゆーことですかッ??
「このハウスに仕掛けがあるんだ」
このハウスね~・・・何も仕掛けがないように思いますが、確かにあまり見たことのないサイズかもとか、そのくらいしか気が付かないな~^_^;
「これは幅2.5メートルの片品村用特注ハウスでね」
とッ、特注ですか!アジサイ専用の?
「そうだよ、これのお陰で水をやらなくてもいいんだ。屋根に雨や朝露がこの袖の部分に溜まって、徐々に下に落ちていくんだ。これは片品村のオリジナル手法だよ」
おっとぉ、それで地面を自然に濡らしているから、潅水は必要ないわけですね。
むしろ、潅水をすると生長が促進されてしまい、締りのある良いものができなくなるのだとか。
「地面は乾いているように見えるけど、ちょっと掘れば十分に湿っているし、根はここまで来ているからね。
ウン探さん、よく見てってよ。ここまで根が来ているんだ」
と地下足袋を履いた足で示す星野さん。
「この土の中もしっかり湿っているよ!」
んまった~、星野さんたら!
こんなに表面が乾いて見えるのに、この中が湿っているわけ・・・
「ほら、見てごらん」
あ、ほんまや!!湿っとる!!w( ̄Д ̄;)wワオッ!!(驚きのあまりいきなり関西弁)
表面は一見乾いているように見えても、表土を1センチめくると、湿った違う色の土が出てきたのです!
「あ、見えた。ほれ、これが根だよ」
え!?この白いひげみたいのが・・・ですか?
「そう、これが株からぴょろろ~んて伸びてここまで来ている。深いところにはもっとしっかり根が張っているよ。古い根ほどよく張っている」
Σ(゚д゚;) ヌオォ!?ひょえ~。ちょっと掘っただけで根の先端がチョロチョロと。
しかも掘れば掘るほど根っこがジャンジャカ出てくるぅ~!
貴重なものを見せていただきました。
片品村オリジナルハウスを以ってして、潅水は邪道であるということが納得できました。
「その水が届いて、根が十分に張って、ハウスの中の方まで水をやらなくてもいい距離っていうのが、2.5メートルなんだ。
昔は2列で植えたりもしていただけど、2列は混み過ぎてダメ。そこで結果的にこのスタイルがいいということが分かった。
ハウスの天上のカーブもほかのものとちょっと違う。パイプも丈夫だし、全てが片品村オリジナルなんだ」
ちょうど取材に訪れた日は、9月7日で二十四節気のうち、白露に当たります。
白露とは「大気が徐々に冷えてきて、露ができ始めるころ」。つまり、星野さんのところでは、この露を使って栽培しているわけです。
でも、白露が来る前の真夏は露ができないのでは?
「大丈夫、真夏でもできるんだ。ここは高原だからね。朝露は毎日のことだよ」
Oh,イッツ・ミラコー!(←ミラクル)でございます。さすが高原!
考え抜かれた手法と理論に裏打ちされた数字。片品村ならではの黄金律が隠れていたのです!
■遮光
アジサイ類は、遮光も大事。
うまくいくかどうかの成功ラインは「遮光率40%」だといいます。
遮光率40%て結構遮っているように思いますが、このくらい遮光しないとミナヅキは焦げてしまいますキョエ~!!
って、火は出ませんよ。念のため。
ガクが焼けてしまってきれいなピンク色にならないということです。
ところがだからと言って、遮光率を上げて光が届かなくなると、ガクがもろく、ふにゃふにゃに・・・柔らかすぎてしっかりとしないわけです。
「モヤシの原理と同じだいねー」と星野さん。
この40%も、たった3年前に結論付けられた数字。
10年前に始めたミナヅキの生産も、何とそれまでは遮光30%くらいだったそうです。ところが、太陽の活動が活発化した現在では、30%ではうまくいかなくなったのだとか。
「5-6年前から、“あれ?”と思い始めてね。30%と50%とトライしてみたけど、両方うまくいかなかった。我々にとっちゃあ1年に1回しかチャンスないし、気象条件も毎年少しずつ違うでしょ。やっと3年前に40%がいいということがわかったんだ」
このきわどいパーセンテージでうまく“遮光”されたミナヅキだけが、晴れて“社交”の場に登場するというわけです。
あはは、ダジャレマンめ、今回も登場したか。
■ライムライトの構造をチェック!
ライムライトやミナヅキは1株から15本くらい枝を立ち上げます。
“その気になれば”もっと立ち上げることはできるのですが、1輪のサイズが小さくなってしまうので、ちょうどよい大きさにするために15本という数字が◎
株が持っているエネルギーは5本立とうが10本立とうが同じわけですね。
そのエネルギーを5本で割ればそれだけ1枝に与えられるパワーが大きくなる。10本ならその分1本分のエネルギーが小さくなる。というだけの大変シンプルな理論です。
そして、私たちが思う“1輪”の構造はどうなっているのかというと・・・
じゃじゃーん!(ツボミの時点で見てみましょう)
1段に3輪小さい花序が出て、それが3-4段ある。
つまり小さな12輪が集まって大輪1つを形成しているわけです。
またその小さな一輪の花序は更に小さなガクの集まり。まさにスイミー的先方で圧倒的な存在感を演出しているのです!
■高原栽培
片品村の枝物生産者さんは、標高700-1,000メートル周辺で栽培しています。
星野さんのところも夜温は真夏でも15度くらいまでストン!と落ちます。
あ~、高原だなぁ(´∀`)・・・全く以っていい所です。
夜温が下がれば、昼暑くてもそれだけ植物もゆっくり体を休められるので、株がしっかり出来上がってきますし、色も載るようになってきます。
なるほど、このクオリティは高原という片品村の特性を生かして作られているのですね。
■星野さんにとってアジサイの魅力は?
「製品になるまでどんどん表情を変えていくのが魅力だな。
ライムライトであれば緑から白、白からピンク。ミナヅキは白から緑、緑からピンク。アジサイの別名を七変化っていうけど、本当にその意味がわかるよ。」
そうです、皆様も良くご存知の通り、アナベルやこれらのミナヅキなどアジサイ類は一見花に見えるこの部分は実はガクなのです。
本来の花は、小さくて大変観賞価値が低く、花期もすぐに終わってしまいます。色が変化して様々な表情を見せるのは、このガクの部分。そのままドライにしても形を保ち続けます。
あ!このあたりは既にピンクがかっています!
大きな三角形ができてから、ピンク色になるまでなんと2カ月くらいかかります。ここがほかの花きとは違うところ。気長に色の変化を待ち、出荷まで大切に育てないといけないのです。
確かに、星野さんは気長で優しそうなお顔をしていらっしゃいます(*^-^*)
「アジサイ類は水がなくても長い間持つもの。だから1本単価が一見高いと思っても、実は長い間楽しめるから、決して高いものではないんだよね。だから買って長く使ってほしい。
ちなみに水揚げは外側の厚い皮をむいて、タコ足に割くといいよ」
と、星野鉄郎の親戚ではない星野一郎さんは消費者の皆さんにメッセージを送ります。
これからの季節は、同じミナヅキでもグリーンではなく目が覚めるほど鮮やかなピンクに色づいたミナヅキが登場します。是非片品のピラミッドアジサイをお楽しみください。
・・・JA利根沼田 片品村支店 後編に続く・・・
(後編は、アナベルの桑原ゑみ子さん、秋色アジサイの石橋範明さん、そして、片品村の格言です!)