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2012年11月20日

vol.98 奥 隆善 氏(チョコレートコスモス)前編

は~い!みなさん、お久しぶりでございます(≧∇≦)!
今回は、近年人気急上昇のチョコレートコスモスを特集しちゃいます!
しかも、取材先はチョコレートコスモスの育種からやってしまうという三重県の奥隆善(おく・たかよし)さんです!


“あ!その人知ってる!”とか、“どこかで見たことあるなぁ~”という方は、なかなか冴えていますね。なんと奥さんはNHK番組の『趣味の園芸』などにもご登場される業界の有名人なのです!若きホープなのです。

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さすが、撮影慣れしていらっしゃるのか、
そのスマイルは爽やか~ン≧(´▽`)≦
この爽やか奥さんがどのような思いでチョコレートコスモスを育種、生産されていらっしゃるのか、その秘密に迫ります!


その前にチョコっと一言、チョコレートコスモスは長い名前なので、流通に携わる人の間では略して「チョコス」とか「チョコス」などと呼ばれます。
仮にここでは「チョコモス」と呼ばせて頂きたいと思いますので、宜しくお願いしモス!!

さて、その奥さんのチョコモスですが、現在市場ではどのような評価を得ているのでしょうか。大田花きの営業担当S藤(イニシャルトークの必要ないんだけど^_^;)に聞いてみました。

「ピンと立つんですよッ!茎の下の方を持つと、こうやって、ピンッて」(ゼスチャー付き)
なるほど、イメージ的にはとても細い茎なのに、背筋を伸ばして自立しちゃうんですね。


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「それから買参人さんに“チョコモスいかがですか?”とご紹介させていただくと、
“え~、欲しいけど、奥さんのじゃないといやだぁ~ht17.jpg”って言われたりするんですよ~☆ウフ
ピンと立つ茎、胸がキュンとする輪サイズと色載り、奥さんのチョコモスはピカイチですね」

S藤からかなりの高評価!
antiquered.jpg(品種:アンティークレッド)
ウン探のスイッチが入りましたモチベーションUP☆いざ出陣です!


やってきましたのは三重県伊賀市。
そう、伊賀と甲賀の伊賀です。ニンニン!!
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ここは周囲を山に囲まれた伊賀の里。
あの山の4087.jpg向こうが甲賀の里
近くには信楽(しがらき)が。タヌキの信楽焼で有名ですね。

そしてこの先が4088.jpg柳生の里
おっと、柳生十兵衛の柳生の里ですかぁ?あの全盛期の千葉真一が扮する柳生十兵衛??

キャーッ!懐かしい~(≧∇≦)って、あまりいうと年代がばれるのでホドホドにしつつ、
「そう、この辺りは全部忍者の隠れ里だよ」
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と今回の主役兼ナビゲーターの奥隆善さん登場!


「●賀とつくのはその昔、忍者が住んでいたところなんだ。

でも伊賀は忍者云々の前に、地方豪族が住んでいたところ。忍者の里というよりは、土着の豪族の土地なんだよ。古墳もたくさんある。前方後円墳もいくつかあるよ。畑にしちゃってるけどね」

(; ゚ ロ゚)ギョッ!えッ?前方後円墳、つまり古代の御墓の上で何か作っちゃってるってことですか?
いいんですか?そんなことッ??(・_・;)_・;) ナントッ!!

「いいも何も、ダメって言われる前からそうしているんだよね。だから今更ダメッて言えない。
石室が残っているのに、前方後円墳の“円”側で果樹を作って“方”で野菜を作ってたりね(笑)。
これがまたよくできちゃんうだよ、土がいいから。」

土がいい・・・?

「この辺は大昔、琵琶湖の底だったんだよ」

び、琵琶湖っ??
琵琶湖って2つあるんでしたっけ?「琵琶湖1」「琵琶湖2」とか?
滋賀県にある琵琶湖はドッチなんだろ?あっちが本家の「琵琶湖1」かな。
あれ、ココ何県でしたっけ?あ、三重県か。「琵琶湖1」まで何キロあるんだろ。あー、もう全然ワケわかんなくなってきました。

奥さん、琵琶湖って、あの琵琶湖ですか?滋賀県の?

「そうだよ。湖って移動するんだ」

えッ∑(゜◇゜;)

そ、そんな。学校では誰も教えてくれませんでした。(多分)
奥さんのお話によると、“湖は生きている”
琵琶湖の誕生はおよそ400万年前。バイカル湖、カスピ海に次いで古い世界有数の古代湖なんだそうです。もともとはココ伊賀に生まれ、それが地殻変動で北に移動して、現在の琵琶湖になったということです。

なんて物知りな方なんだ。(T_T)感動

「湖の底に土だったから、粘土質なんだよ。だからたいていの物は締まってよくできる。

ただ、さっきの“古墳”ていうのは、粘土質の土に黒ぼくという肥沃な土を盛り上げて築かれているみたいで、とても排水が良かったりするんだけど、排水の悪い粘土質だと育ちにくい植物にも向いているということなんだ」

なるほど、粘土質ということは、近くの信楽で焼き物の技術が発達したのもその影響があるのですかね。

さて、この辺りのことを少し知ったところで、こちらが奥さんの圃場です。
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奥さんの育種生産に関するこだわりの要素は、「日月火水木金土」に象徴されます。
曜日とは関係ないのですが、なぜかハマりました。ですから、これに沿ってご説明したいと思います( ^―゜)b


101b.jpgまずはから。
潅水について。株元にパイプを通して潅水します。
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「でも1週間に1回くらいかな。それ以上やると、よく丈は伸びるけど、茎が柔らかくなってしまうんだ」


なるほど、この通り、水をやった直後でも土の表面は乾いています。
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「施設内でも外側の畝を見てごらん。そっちの方が全体的に背が高いでしょ」

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あ、ほんとだ!どうしてですか?

「雨が降ると、どうしても外から水が入ったり、地面に浸み込んだ水を吸い込んで、丈が伸びやすくなるんだ。早く育って丈は採れるけど、茎が柔らかい。
このような外側の商品は極力大田花きには出さず、場合によっては廃棄したりするよ

なるほど~!
水のやりすぎは厳禁!意図していなくても、自然に水を吸って育ってしまう“外側の商品”は、茎が柔らかいだけでなく、日持ちにも影響してくるそうです。
大田花きには施設の中央のものからご出荷いただいています。
S藤が言っていた細くてもピンッと立つ茎の秘密は、1つここにありました。
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“外側の商品”は極力大田花きには出荷しない・・・奥さん語録①

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株の育て方です。


ピンチをして生かす花芽を考えたり、バランスを整えたりするのですか?

「ピンチはしていないよ。
ピンチをする必要のないものを育種段階で作っていくんだ。」

つまり、育てやすい品種を育種するというわけですね。

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そして“花はPrice-Quality-Style”という奥さん。
Price(価格)小売に合った価格で提供する。また提供できるよう、生産コストを管理する。

Quality(品質)=お客様が求める品質になるよう作り方をシフトする。自分が求める最高を目指すのではなくて、お客様が求めるものであることが重要。

Style(形態、流通面における要素)=流通のための箱、形態、作業効率、梱包時刻や出荷時間など、どのようなスタイルを採るのが最適かを考える。

これらの点のそれぞれを追求してチョコモスを生産する。持続可能な農業生産を行うには、これが大切な要素だと奥さんは言います。

花はP-Q-S・・・奥さん語録②

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ところで奥さん、千葉大大学院をご卒業されたということですが、何を専攻されていらしたのですか?

植物細胞工学だよ。
英語でPlant Cell Biotechnology(プラント・セル・バイオテクノロジー)だから、略してバイテクって言われたりするんだ」

へー、ザイテクですか。

「ザイテクじゃないよぉ。バ・イ・テ・ク
財テクなんてやり方全然わからないよ。お金には縁がない」

円には縁がないんですか・・・。(デタデタ^_^;)

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「ここで農業を始めたときは、大学院を出たばかりでお金ないし、実家は農家じゃないし、農機具も揃っていないし、施設もない。ゼロからだったよ」

就農資金も十分にない状態でどのように始められたのですか?

「水田の土地だけは少し持っていたからね、そこを耕して露地で始めたんだ。
アサガオ、ケイトウ、エリンジウム、モルセラ、ミント、カラー、グラジオラス、麦ナデシコ、フウセンカズラなどなど、色々やったよ」


奥さんは、現在切り花ではチョコモスとハボタン、ナズナをご出荷くださっています。
この3つに辿り着いた理由は何ですか?

「まず一つは育種をしたかった」

バイテクを修められたわけですから。

「だけど一般的に“育種は10年不採算”と言われるほど収益性は見込めない分野。だから一方で何かを生産しなくてはならない。

自分の持っている水田で露地でこの気候でできるものは何かって考えて、色々やってみて、その結果だったんだよ」

伊賀は三重県ですから、ひょっとしたらみなさんは暖地性の気候というイメージを持たれるかもしれませんが、奥さんによると実は内陸性で結構寒いといいます。春の到来は遅く、冬は早い。この気候と限られた資金と持ち合わせた土地という条件で、トライアンドエラーを繰り返して今の奥さんがあるのです。

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この辺りは先述のように粘土質(伊賀古層)で、関東ローム層とは異なり花崗岩に水や空気が入りながら風化したものなのだそうです。

う~ん、さっきも粘土質で何でも締まってできるとおっしゃっていましたが、粘土質だとなぜ何でも締まってできるのでしょうか。σ(゚・゚*)ンート・・・

「砂地っていうのはサラサラしているから、水はけがいい分、肥料の持ちも悪い。

粘土質はその逆で、肥料や水の持ちが良く、また根が伸びるのに力が必要な分、ゆっくり根が発達する。時間をかけて生長するから、株ががっちりと固く生長するんだ。

でも、伊賀の土が他と違う分、同じ花や野菜でも育てる品種が違ってくるし、使う農機具も異なってくる。
種まきひとつから伊賀地方に合った育て方をしないと、本やテレビで紹介している一律の方法ではうまくいかないことがある」

なるほど~、伊賀には伊賀の農業があるわけですね。この土地だけの最適農業が。

そこで奥さんは「伊賀農業の伝道師」として、地元のケーブルテレビにレギュラー出演されたり、地元の公民館で園芸教室をされたりして、伊賀農業の啓蒙活動を行っています。

「少なくとも失敗しなければ園芸は楽しいはずでしょ。だからその地域に合った農業を提唱して、楽しい園芸を伝えていきたい。
延いては消費アップに繋がるわけだから。各地域でそういう最適農業を伝授できる人がいるといいなと思うよ」

ヌァント素晴らしいスピリット!


「それに粘土質って言っても、何でも一辺倒じゃないんだ。
砂利採取なんかで土を移動させてる場所もあるから、同じ水田の中でも土は違ったりするんだよ。

だから、最初は雨が降ったら長靴を履いて、泥まみれになってこの水田の土の性質はどうなっていて、どこに水が溜まって、どこにどんな畝立てをしたらいいのかなど、徹底的に調べたよ。泥の気持ちは泥になってみないと分からないからね」
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蓋し、名言!!(≧∇≦)
普通は泥になれんもんなぁ。そもそも泥になろうとも思わんて。この名言が出るっちゅうことは、それだけご苦労されて土質を研究し尽くしたということやろな。

「この施設は農業高校で非常勤講師などをやって、コツコツとお金を貯めてやっと建てたんだよ。最初から良い施設があったら徹底的に土質を調べるところまではやらなかっただろうね」
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もう、奥さんに脱帽です。


実際、チョコモスの場合は、どのような土が適しているのですか?

「少しアルカリ性の土がいいね。だから少量の石灰を入れて、ミネラルを供給する。そうすることで固くしっかりしたものができる。

しかし、何よりも堆肥を中心に混ぜることが重要なんだ。堆肥を入れることにより、植物の生長に必要なアンモニア態窒素を絶えず必要な分だけを供給することができるんだ。
しかも株の勢いが保たれるし、老化しにくい」

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つまり、堆肥を入れることでアンチエイジングの秘薬のようなものが手に入るってことですね!
アタシもほしぃーーー!


「でも化学肥料も使うよ。
有機農法の良いところと化学肥料や近代農法の良い所を組み合わせているんだ」


ところで何の堆肥ですか?
「伊賀牛の牛糞と・・・(なんて高級そうな響き≧∇≦!)豚糞と伊勢赤鶏の鶏糞のミックスだよ」
うわぁ!地元の高級そうな響きの畜産ブランドのミックスによって最適な土が作られているわけです。


泥の気持ちは泥になってみないと分からない・・・奥さん語録その③

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太陽ですね。
露地で作っていると太陽の光が強すぎて、品質が頑丈になりすぎてしまうといいます。

「だから、施設の中でフィルム一枚通した光がベスト!もっとも細くて美しい姿をしていながら丈夫なものができる。
それからコスモスは短日(たんじつ)植物※、しかも“量的短日植物”といって、少しでも日が弱いと“日が短くなった”と感じて早く花を咲かせる。だから、フィルム1枚くらいがあるとちょうどいいってことなんだよ※」

※短日植物:ザックリ説明すると、日が短くなってくると花芽を付ける植物のこと。しかし、本当は夜の長さを感じて花を咲かせるようになるので、“長夜植物”というのが正解。
量的短日植物:これに対し、“質的短日植物”というのがあり、絶対値として●時間暗くしないと花芽が付かないという植物のこと。ポインセチアなどがこれに当たる。


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月の巡りに合わせて、毎年同じようなタイミングで植え付け作業をしていきます。

「植え付けるサイクルは大切」という奥さんは、毎月第何週に何をするという作業スケジュールは最初から決まっているのだといいます。
これを忠実に実践していくところが当たり前のように見えて、とても大切なことなのです。


101b.jpgそして最後に

これは冬の暖房・・・と思ったみなさん!イヤイヤ
それも確かにあります。出荷を急ぐために、暖房をジャンジャカ使えば、その分収量もスピードも上がりますが、茎は柔らかくなってしまいます。

いかに暖房を使うかというのも大切なポイントではありますが、ここでは「火」を奥さんの情熱に喩えたいと思います。


GF.jpg元を辿れば、幼いころは金魚のブリーダーになりたかったという奥さん。それが小学校5年生の時に、園芸好きのお祖父さまからもらったハボタンの種をきっかけに植物の道にハマって行きます。
これはまさに隔世遺伝!

そのタネをまいて出てきた芽を見た瞬間、奥隆善少年は、
illust311_thumb.gif「美しい!」*(о☯‿☯о)*キラキラ

と思い、植物へのスイッチが入ったといいます。

中学生になってからは、短日植物のアサガオを題材にして、“日が短くなったのを感じるセンサーは植物体のどこにあるのか、本葉ではなく双葉にもそのセンサーは備えてあるのか”を自ら研究するため、本葉が伸びてきてはちぎって・・・という実験をしていたといいます。
アタシャ、チューガクでなにやっとったかな。スゴイナ

それで、双葉だけでも開花したのでしょうか。
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「したよ。奇形だったけどね」

その感動は現在に至っても忘れることなく、心の中に秘められた植物に対する情熱は、表に現れた温厚な笑顔に反して、とても熱いものがあると感じました。


伊賀には伊賀の農業がある。それぞれの地域で、それぞれのやり方がある。テレビや雑誌などで紹介されるやり方と同じやり方をしていたのでは、うまくいかなくなって園芸離れを起こしてしまうと、自ら地元の園芸伝道師を買って出る気概と熱意。金儲け主義に走らず、強いポリシーで地元で育種と生産をコツコツ続けながら、ひたむきに植物を愛するピュアな心。
もうこれは、ウン探は“恐れ入りました”と頭を下げるしかありませんでした。

☆後編に続く・・・
後編はハボタンや奥さんとチョコモスの出会いなどについても語ってもらっちゃいます!
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<写真・文責>:ikuko naito@花研

Copyright(C) Ota Floriculture Auction Co.,Ltd.