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2015年10月17日
vol.112 片桐農園様★カボチャをめぐる冒険 第5話
カボチャをめぐる冒険第5話は、北海道砂川市にやって来ました。(第4話はこちら)
砂川市は、札幌市と旭川市のほぼ中間に位置し、明治23年、この大地に開拓の鍬が下されて以来、交通の要衝として栄えてきました。また鉱工業も盛んで、かつては石炭産業でその名を馳せた町でもあります。
深川市から電車で滝川市を通り砂川市にやってまいりましたが、深川から逆次は旭川市・・・なんだか「●川」って地名、多くない??なーんて思ったら、「川」が付く自治体が4つ以上連続するのは、やはり全国でも珍しいのだとか。
共通している点は、これらの市が全て「石狩川」沿いにあること。
砂川の地名はアイヌ語の「オタ(砂)・ウシ(多い)・ナイ(川)」に由来するのだとか。
そんな砂川市は、知られざる日本一を持つ町でもあります。
美しい町づくりのために市を挙げて緑化に力を入れていて、なんと「市民一人あたりの公園面積が日本一!」(2014年)。
しかしこの町には、もう一つ日本に誇るものがございましてね。この度は砂川市が誇る、ある生産者さんを訪問するためにウン探が冒険に出たというわけです。
砂川駅から2キロくらいのところにあるこの看板。
そう、今回の訪問先はカボチャ生産の「片桐農園」さまです。
この看板に描かれたお顔の方を探していたら、すぐわかりました。
こちらが片桐農園のご主人・片桐光一(かたぎり・こういち)さん。ほんとそっくり!
片桐さんは、広さ4町歩(ちょうぶ)、30品種以上もオモシロカボチャを集めて、生産・出荷している大変ユニークな個選の生産者さんです。
この目の前に広がるカボチャ畑・・・カメラに収まらないケド
うンワー、広い!っていっても、4町歩ってどのくらい?
町歩とは、面積を示す単位の「町(ちょう;丁と書くことも)」のことなのですが、長さでも「町」という単位が存在するため、紛らわしいので、あえて「町歩」といって区別を付けることがあります。
1町歩はおよそ10反。
1反は300坪、990平方メートル、10畝(せ)となります。
ですから、1反×10が1町歩で、4町歩といえばその4倍ですから、
12,000坪、40,000平方メートル、400畝となります。あーもー、なんだかわからんくなってきた(*_*;
別の単位でいくとおよそ4ha(ヘクタール)あります。あ、つまりそういうことです。
東京ドームが4.7haなので、それよりひとまわり小さいくらいの圃場で、たった1軒でカボチャを作っていらっしゃるわけです。
北海道は大きく、収穫量のポテンシャルは果てしなく高い!
では早速、片桐農園さんとともにカボチャをめぐる冒険に出発です!
<第5話 目次> 片桐農園さん前編
★片桐農園さん流 品種選定
★昨今の人気と取引の傾向
★生産
CHAPTER 1. 天候とカボチャの密接な関係
CHAPTER 2. キュアリング❤
CHAPTER 3. 収穫のタイミングはどうみる?
★片桐農園さん流 品種選定
片桐農園さんで手掛けているカボチャの品種数は30品種以上。
しかし、いずれも見た目の面白さだけで選んでいるわけではありません。品種選びには、片桐さん流のノウハウがあります。では、どのあたりを基準に選ばれるのでしょうか。
「まず着果日数。
カボチャは、畑に定植してから着果・収穫まで100日というのが基準。
重量の競技用にも使われる巨大な品種"アトランティック・ジャイアント"は収穫までが長くて110日。
それ以上日数がかかる品種は北海道では作れない。」
なるほど、ここでどんなにカワイイと思ってもバッサリとふるいにかけるわけですね。
「北海道は秋の到来が早いから、着果日数が長いものは、実が完熟せず未熟なままで終わってしまうからね。基本的には100日以下の品種を選ぶ。
大型種で90-95日くらい、
中型種で70-80日くらい、
小型種なら65-70日くらいかな」
やはり小さい方が収穫までの日数が短いのですね。
「そうそう。
それからカボチャは開花から収穫まで最大品種でも45日、ミニなら25日くらいで収穫できる。ミニ品種は今年のような雨の多い年でもなんとか収穫できるわけだよね。
ミニの方が展開が早いから取り入れやすいというワケ。
例えばこれはネオン。カナダで開発された品種。定植後65日で収穫できる。
秋が早い北海道には、カナダの品種は結構合うんだよ。」
なるほど、このサイズで65日なら良い方でしょうか。
何より着果日数が北海道の気候に適っているかどうかが第一関門というわけですね。
2番目のポイントは?
「形。
昔は"ロングフェイス"といって縦長のものが喜ばれたんだよ。
なぜなら、置いておくと遠くから見て目立つからってことでね。だけど尖がっていると座りが悪いから、徐々に平べったいもの、安定性のあるものの人気が出てきたんだよ。」
なるほど、時流にあった形をしているかどうかということですね。
他にもポイントはありますか?
「それからカボチャの大敵はウドン粉病。これにかかりやすいかどうかを見るんだ。」
カボチャの宿命とでもいうべく、ウドンコ病はやっかいな植物の病気。カボチャウドンコ病という菌があるくらいです。
最初は葉にウドン粉を吹きかけたように白くなっていくのですが、放っておくと実にも伝染してしまうのです。どうしてもウドンコ病にかかってしまうものなのですが、できるだけかかりにくい品種であることがもちろん望ましい。
砂川や深川一帯はソバ粉の生産量が日本一だというのに、ソバ粉ではなくウドン粉病が付くなんてね(*_*;
「そこで、最近はウドン粉病に耐性のある品種改良が進んでいるんだ。
その代わり、そういう優良品種はタネ代が3倍になるんだけど、それでもやはりウドンコ病には強い品種の方がいいよね。」
ここで片桐さんの品種についてご紹介いたしましょう。
★品種について
「これはデイジーという品種」
"デイジー"だなんて、かわいい名前ですね。
「なぜかわかる?」
はて?「(゚ペ)
「上か見るとデイジー(ヒナギク)の花みたいでしょ。
私には桜に見えるから、チェリーでもいいんじゃないかと思うんだけど、デイジーっていうんだ。5-6枚の花弁が開いたような形なんだよ。」
あんりまあ、ほんと。桜かデイジーかって感じですね。
活躍中のラグビー日本代表のエンブレムを思わせます。生花店さんや生活者のみなさまにも喜ばれる品種に違いありません。
こちらはアラジン(左)とレッドターバン(右)。
本当にアラジンと魔法のランプに出てくるオジサン(アラジン)が頭にターバンを巻いたイメージが伝わりますね。
他のオレンジより色が濃い「赤ずきん」など、他では見つけられない品種があるのが片桐農園さんの特長です。
ところで、これらは食べられるんですか?
「カボチャは主に2つのカテゴリーに分けられるんだ。パンプキンとペポ。」
カボチャ=パンプキンだと思っていましたー!←<誤>
日本語ではパンプキンやペポなどの総称がカボチャとなるわけですね。←<正>
それにしてもペポって??聞き間違えたかな?
パピプペポのペポ??PEPO??
「そう、ペポというのはこういうグループ。
皮しかなくて、果肉がないんだよ。厚い皮の中にタネがある。」
そんな!?片桐さん、アタクシの乏しい想像力では、そういうの全くイメージできないんですけど・・・
「んじゃ、実を切ってあげるよ。」
え?いいんでしょうか??
ありがとうございます(涙)
鑑賞用のカボチャを割るのって意外と勇気入りますよね!?うんちく探検隊読者の皆様の中にも、切って中身をご覧になった方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。
ということで、片桐さんの優しいお言葉に甘えて、パッカーンと切っていただきました!
パッカーンッ★
ペポを割るとこんな感じ。
実のように見える部分は皮。つまり食べるところがない。これがペポの特徴です。柔らかければ噛めるとしても、おいしくありませーん。
一方、パンプキンは、「皮+実+タネ」が基本的な構成。私たちが日ごろから食すタイプのもの。可食部がしっかりあるのです。これが大きな違い。
コチラはまた片桐さんらしいユニークな品種。片桐さんは観賞用に生産していますが、元来はタネを食べる品種です。
通常、タネは固い殻の中に柔らかい種子が入っていますが、こちらの品種は外側の固い殻がなくそのまま食べられるのです。
「炒って食べると、柔らかいピーナッツみたいですおいしいよ。ケーキ屋さんでよく使われるんだ。」
と言いながら、またまたパッカーン!と切ってくださいました。
タネはこんな感じ。これを炒るとそのまま食べられるのです・・・しかし、タネ以外可食部はありません。
「見た目としても模様がユニークで面白いかなと思って、観賞用に今年から作ってみたんだ。新品種だよ。」
そんな片桐さんのこだわりの面白品種を集めたのが「クレイジーミックス」。このような変り種のミニサイズカボチャが1箱35個セットになっています。
片桐さんの品種の多彩さを象徴したバラエティボックスです。是非一度お試しください。
★昨今の人気と取引の傾向
昨今の取引傾向に変化が見られるという片桐さん。
どのあたりが変わってきているのでしょうか。
「品種で言えば、小型種と形が極端に変わったもの、珍しいものという傾向に変わってきているかな。
例えば、こちらのペアストライプ↓
これは日本でも戦前から作られていて、100年も前からこの形でよく知られた品種なんだ。関東でも作っているし、真新しさに欠ける。
だから人気の点からはイマイチ。
どこでも採れるタイプよりも、北海道でしか採れない方がもちろん人気も価値もある。
ベレー帽タイプのレッドターバンとかは人気だよ。
とりわけ今年で言えば、白いミニが人気。」
品種のほかに何か感じる変化はありますか。
「取引でいえばタイミングが早くなった。年々市場からの注文が早くなってきているんだ。
ほんの5年くらい前まで、"9月23日前後のお彼岸が終わるまではカボチャは売れないから送らないで"と言われていた。」
なるほど、お彼岸が終わるまではカボチャは動かないからですね。
「ところが、特に若い世代にはお彼岸の商品よりハロウィンの方が受けるでしょ。だからお彼岸前からもう注文が入るんだよ。
お彼岸用品といえば、取引に関係してくるのは主にお寺さんとローソク屋さんと花屋さん」
ちょうどそのころ忙しくなるお仕事の方ですね。
「だけど、ハロウィンともなれば洋服屋さんに商業施設もおもちゃ屋さんもレストランもホテルも、あらゆる業種がハロウィンを意識して売り物にしようと考えるようになったでしょ。
規模も多いし競争にもなってくるから、やはりカボチャの動きは年々早くなってくる。
来年はもっと早くなるんじゃないかって予想しているんだ。」
ハロウィンのマーケットサイズは、今や1,100~1,200億円程度とも試算されていますが、今年あたりはさらに大きくなっているのではないでしょうか。1,150億円(2014年)といわれるバレンタインのマーケットに追いつけ追い越せの勢いです。
"当日"だけではなく、1か月以上前から街はハロウィンムード。取引の期間が長いということもハロウィンマーケットの特色と言えるかもしれません。
「しかし、これ以上取引のタイミングが早くなると、北海道の生産は間に合わなくなってくる。8月中に切り上げないといけなくなるから、その点の対応が難しくなってくるような気がする。
一般の消費者が買うタイミングが早くなったわけではなく、ディスプレイ用など商業利用している人たちのタイミングが早くなったからなんだけど。
じゃあ、早く出荷するためには、種まきを早くすればいいかというと、そういうことでもないんだ。」
何が問題なのでしょう??
「北海道では5月15-20日くらいにかけて霜が降りるんだよ。遅霜(おそじも)っていうんだけどね。
本州では藤の花が満開を迎えるころ、北海道では雪が降ったりするからね(笑)
だからそういう時期に定植すると、カボチャは霜に弱いからダメになっちゃう。」
早く出荷したいなら、早くタネまきをすればいいというほど単純にはいかないわけですね。これは、なおさら着果日数の短い品種を選ぶ必要がありそうです。
では、カボチャの生産についても伺ってみましょう。
★片桐農園さん流のカボチャ生産については、以下の順でご紹介します。
CHAPTER 1. 天候とカボチャの密接な関係
CHAPTER 2. キュアリング❤
CHAPTER 3. 収穫のタイミングはどうみる?
CHAPTER 4. あなどる?あなどらない?土のクオリティ
CHAPTER 5. 空飛ぶカボチャ
CHAPTER 6. ネズミとコオロギのカジリ対決
ではまず天候から。
CHPATER1 : 天候
カボチャの生産は天候に大きく明暗を左右される品目の一つです。その年の作柄は何より天気が主導権を握ります。
注意すべきは雨と暑さ。
「今年は雨でやられちゃったけど、去年は暑さでやられちゃってね」
カボチャという言葉はカンボジアからきているだけに、温かいところでできるイメージですが、そうでもないのですね。
「生産国は熱帯でも、標高の高い高原とか涼しいところが好ましい。夜温がしっかり下がることも大切。
夜温が22℃を超えると、ツボミの中で花粉が分解して開花しなくなるんだ。」
ぶ、分解??空中分解ならぬ、花中分解?
「花の中にはめしべとおしべがあるでしょ。
めしべは暑くても大丈夫なんだけど、おしべの場合、暑いとその鞘の中の花粉が死んでしまうんだよ。
花が開くと花粉鞘も開いて、受粉できるようになるんだけど、それまでの間に温度が高いと鞘の中で花粉ができなくなっちゃうんだ。たとえ蜂がブンブン飛んでいてもね。すると着果しなくなっていまう。」
なるほど、だから夜温がしっかり下がることが大切なんですね。
国内でも鑑賞用カボチャを考えると、高冷地が多いですね。北海道が圧倒的にシェアが多いのですが、ほかに長野や岩手、群馬などで生産されています。
「一方、今年は雨で頭が痛かったよ。
7月10日から8月10日くらいまでほとんど雨が止まなかった。本州の梅雨みたいな時期が北海道でもあったんだよ。北海道は本来梅雨はないのにね。」
片桐さんのところでは、水田転作でこのように少し低くなっているところがあります。
↑周りの畔が高いのに対し、圃場が一段低くなっているのがわかるでしょうか。それだけに長雨で水が溜まってしまい、カボチャに腐れが出てしまうのです。水が溜まっていると、除草剤も効かなくなってしまいます。
カボチャの場合、多湿より雨が降らない方が良い。今年の長雨は作柄に大きく影響してしまいました。 (詳細後述)
CHAPTER 2 : キュアリング
カボチャたるもの、収穫したらすぐに出荷というわけにはいかない!・・・ということは、「カボチャをめぐる冒険第1-4話」でご紹介させていただきました。
もちろん片桐農園様でもきちんと風乾させてから出荷しています。
片桐さんはこの工程を「キュアリング」とおっしゃいます。なんだかとってもカッチョエエ響き~(´▽`)!!
「治療する」を意味する英語の"CURE"からきているのですか?
「そうそう、"養生"とかそういう意味ね」
なるほど、収穫後に養生させるからキュアリング。キュアリングの際、気を付けないといけないのは、
① 風通し
② 遮光
このうち、どちらを優先するかといえば、実は②。カボ様に直射日光は大敵なのです。 日光が当たりすぎるとどうなるのでしょうか。
「黒くなってしまうんだよ。直射日光が強ければ、1日で真っ黒けだよ。
昨年は1棟分、まるまる廃棄したんだ・・・(*_*;)トホホ」
気温は9月で太陽が出ればハウスの中は最高で30℃以上。夜は17-18℃。洗って、並べて、キュアリング。
片桐農園さんでは品種ごとに棟を分け、中型以上はベンチ式にして、キュアリングしていらっしゃいました。
↑仕事が楽しくなりそうなタワシ。
CHAPTER 3: 収穫のタイミングは?
タイミングを計るために見るところは二つあります。一つは、実の上部の色。
「このカボチャの実の緑色がなくなったときが収穫期。」
これはまだ未熟。
「だけど、今年は雨でやむを得ずフライング収穫をしたんだ。」
その場合はキュアリングをしながら追熟させます。このカボチャは若い時は緑色のカボチャで徐々にオレンジ色になっていく品種なので、緑色が完全に抜けたこちらが本来の収穫期。
「中型種は、色が徐々に変わるから、実の色を見ることが重要なんだよ。
一方、小型種は最初から本来の色をしているので、実の色でタイミングを図ることはできない。」
はて(*゚・゚)、ではどうしたらいいのでしょうか。
「軸の色を見る。」
なるほど、この軸の部分ですね。
「軸の部分にグリーンのマーブル模様が入るようになったら収穫期。
もしくは、マーブル模様の入らない品種は、軸を持って折ってみるといいんだ。ポキッと折れれば収穫期。」
そう、二つ目のポイントは軸を見るということ!
マーブル模様になってきたら収穫OK。品種の性質上マーブルにならないものは触ってみる、あるいは折ってみる。
柔らかくてグジュッと折れてしまう場合は、収穫はまだ早いのです。
例えばこちらの写真↓のうち、手前のカボチャは完熟になって収穫したもの。軸がしっかりしています。
「完熟してから収穫したものは、乾いてからも軸が細くならないんだ。」
一方、奥のカボチャは雨のためやむを得ず未熟のまま収穫したもの。軸が柔らかく、力なく折れたまま乾いています。
このようにヘタが折れてしまうこともあるのだとか。
ではヘタに収穫できませんね(*´ェ`*) テヘ
ですから、まずヘタを触ってみるということが収穫のポイントになります。
まだまだ「生産」の途中ではありますが、ここで一旦まとめ。
◆片桐農園さん流品種選びは・・・
①着果日数
②ユニークな形 ~人気品種に変化あり~
③病気に強いもの
最近の取引は、タイミングが早くなってきているため、早生品種も重要になってくる見込み!
◆生産は暑さと雨に注意せよ!
キュアリングは、風通しと、何より遮光に充分留意すべし!
◆収穫のタイミングは?
①中型種は完全に色が載ってから!
②色に変化のない品種は軸を見る!
<写真・文責>:ikuko naito@花研