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2011年5月30日
vol.85 前橋バラ組合(群馬県)
季節はバラの最盛期!
お庭のバラが今とばかりに満開に咲いているお宅も多いのではないでしょうか。
さて、ウン探はバラの生産者さんを訪問しました。やってきたのは“つ:鶴舞う形の群馬県!”(『上毛カルタ』http://www.jomokaruta.org/)
あれに見えるは赤城山~!ってちょっと霞んでいましたが、空気が澄む冬などは、麓のおうち1軒1軒までクリアに見えます。
す:裾野は長し 赤城山
前橋市は関東平野の北西の端に位置します。ちょうど関東平野が終わりを遂げるところにあるわけですね。
少し話が逸れますが、“鹿沼土”というのは園芸界であまりにも有名ですが、ご存知の通り栃木県の鹿沼から採れた土のこと。実はこの土、赤城山がその昔噴火を起こしたときに、西からの偏西風が吹き、栃木県に舞い降りてできたものです。栃木の土ですが、群馬県のここ赤城から飛んで行ったものなのです(!)
もしかしたらその時の風向き次第では、"前橋土"とか"日光土"とか呼ばれていたかもしれません。
はい、ここで話を戻しますが、この前橋は群馬の典型的な農業地帯で、昔から米麦養蚕(べいばくようさん=米と麦と養蚕)が大変盛んです。アノ国定忠治も赤城山の麓に農家の長男として生まれ、まさに米麦養蚕業に励んでいたそうです。
「赤城の月も 今宵限りか あれぇ~」
上毛カルタでは前橋が次のように詠われています。
け: 県都前橋 生糸(いと)の町
ま: 繭と生糸(きいと)は 日本一
昔ほどではありませんが、繭を作るお蚕の大好物である桑の畑は、現在でもこの周辺にたくさんあります。
さて、今回はその前橋でバラを生産する前橋バラ組合にお邪魔させていただきました。
前橋バラ組合の圃場は赤城山の緩やかな南斜面にあります。赤城の麓なので土壌は火山灰が多く、傾斜と相まって、大変水はけが良いのが特徴です。
また、ら:雷とから風 義理人情というように、強いからっ風が吹き下ろします。からっ風とは、冬場に日本海側から流れてくる湿気を持った空気が新潟県と群馬県の境にある高い山々にぶつかり、日本海側で雪を降らせ、山より東側に吹き下りてくる湿度のない強い風のことです。
群馬のからっ風のことを「赤城おろし」ともいいます。
ここ前橋で農業をするときは、このからっ風さえクリアできれば、群馬県は冬場の日照量は全国第2位、災害も少なく、農業には最適な場所・・・とおっしゃるのは、前橋バラ組合の組合長の大澤憲一さんです。大澤組合長はJA前橋市の代表理事専務という大役もお務めでいらっしゃいます。
大澤組合長のおっしゃる通り、バラの場合は施設栽培ですから、からっ風は態勢に影響なし!大変環境に恵まれている土地柄といえるでしょう。
前橋の環境が良いことはわかりました。では、その土地でどのようなこだわりを持って栽培しているのでしょうか。
こだわりは、なにしろ土耕栽培ということです。
「植物は長年土で育ってきたのだから、土で育てるのが基本なんだよ。ロックウールなども良いのは分かるけど、長い植物の歴史の中では最近現れたものだよね。人間が植物に合うように作ったものでしょ。植物のことを考えたら、結局は土が一番いいんだよね」
メリットは以下の2点。
① 水や肥料を保つパワー(保水性・保肥性)に優れている
=「置換容量(ちかんようりょう)」が高い
② 断熱効果が高い
①「置換容量」ってなんですか(゚_。)??
なんだか耳慣れません。。。
「土が持つパワーのことだよ。
肥料分を土中に蓄えたりする力。土耕栽培なら他の人工培地よりもこのパワーが強いんだよ。だからいいものができるんだ」
②断熱効果って必要なのですか?←シロウト(-.-)
「バラの場合、地温は20-22℃くらいが適温なんだ」
ふむふむ、夏場はそれ以上に暑くなることが頻発しますね。するとどうなっちゃうのですか?
ピカーン!
「これ以上暑くなると生長が止まるんだよ。人間でも暑いと疲れるし、動きたくなくなるでしょ。植物も仕事をしたくなくなるんだよね」
なるほど、暑いとダレやすいのは植物も同じだったのかぁ・・・
「ロックウールやヤシガラは土に比べると断熱効果が低いんだよ。だからそれらを使う人は、一緒に段ボールも使ったりするでしょ。土は1cmでも敷けば断熱効果が全く違うんだ。暑さ寒さに強いんだよ。
ロックウール栽培をしている人は、昨年の猛暑で株が枯れてしまったという話をよく耳にしたよ」
なるほど、昔の日本家屋でも、土壁を使って、寒暖の差が激しい日本を快適に過ごすという工夫がなされていましたね。土耕栽培を取り入れている前橋では、歴史的な暑さを記録した2010年の夏でも、株が枯れるという悲運とは無縁だったのです。
土が持つ自然のパワーを利用する!これが前橋のポイントのひとつです。
今年の夏も期待できます!
ここで、もうひとつポイントをご紹介します。
前橋バラ組合は土耕栽培でも、ただの土耕栽培ではありません。
「少量培地(しょうりょうばいち)」といって、プランターで栽培する方法を採っています。
プ、プランター??
プランターって、あのプランターですか??
ま、まさかね。私がイメージする普通のプランターで日本屈指の品質のバラができるわけが・・・
^_^;ナイナイ。
う~ん、百聞は一見に如かず。ちょっと拝見してみましょう。
な、なんと!!∑(゜◇゜;)
本当に家庭用のプランターではありませんか!
え?チョット、チョット ・・・キョロ|゚Д゚*||*゚Д゚|キョロ
豪華なバラの足元は、“大地に根を張る大きな木”のイメージを覆すコンパクトな家庭用プランターを発見!これは農業界のパラダイムシフトか??
中国の纏足(てんそく)を思わせる小さな足元。これに植えて、高品質のバラを生み出しているというのでしょうか!?
どして?どしてぇ??どうしてそんなことができてしまうのでしょうか?
根っこというのは、①木を支える根(=主根)と②肥料を取りに行く根(側根、ひげ根)の2つのタイプがあります。
①はその株を支える根でこの根が、底に着くと生長が止まり、代わりに②の根が生長してきます。すると、花芽の分化が早まり花を早く咲かせることができるのです。
プランターではなく、直に地面に植えるとバラの根は勢いがありますから、どこまででも主根が深く突き進んでいってしまいます。それを想定して、最初の土壌づくりのときは、ものすごく深く土を起こす必要がありますし、それでは改植も大変です。
ではどうすればいいかというと、①と②の根のバランスを取ることが大切なのです。
それを考えた時に出た結論が、“少量培地”というプランター栽培。ホームセンターに売っているフツーのプランターにバラ苗6株を植えて栽培します。
前橋で使っていたのは幅18cm×長さ60cm×高さ15cmのプランターで、土量にして12リットルですから、1株当たり2リットル(ペットボトル1本ですね)の土で栽培しているわけです。
そう考えると少なくないと思われるかも知れませんが、1つの株から年間平均20-25本のバラを切って、4-5年で改植するわけですから、およそ100-140本のバラを出荷するのに、土2リットルです。
人で言うと畳2畳の生活といったところでしょうか。ですから「少量」培地といいます。
う~ん、結構窮屈そうなイメージですが、これ以上多すぎても少なすぎても少量培地の効果が薄れてしまいます。だいたい5-6株くらいが適しているようです。
あれ?この土の下に敷いてある白い布はなんですか?
「傘の布地だよ」
か、かさッ?(。_。).。??
「傘は水をはじくために油でコーティングして被膜を作っているけど、これは加工していない元の生地なんだ」
どうして傘の生地をこのようなところに使うのでしょうか。
「防根シートとして使うんだよ。普通の布ではバラの根が元気だから突き破って外に出てしまうんだ。これだったら大丈夫。肥料とか土とか有効なものだけはしっかり確保して、余分な水は流れてくれるんだ。根っこもしっかり止まる」
なるほど、これは考えましたね。
傘の生地なら水はけをキープしながらも、勢いが強い根はしっかり止まるようにできるのです。
実は、前橋バラ組合でもかつては地面に植える通常の土耕栽培をしていました。しかし、これでは連作障害の心配もあるし、植え替えの労力も本当に大変なものです。
そこで試行錯誤を重ねるうちに、この結論に辿り着きました。少量培地ならプランターをササッと置き換えるだけですから、作業性の改善という意味もあるのです。
高いところに張ってあるネットや頑丈そうな支柱は、以前の土耕栽培の名残です。
いや~、それにしてもすごいですね。世界のバラ生産者の中でも、ここまで細かく観察して生産の工夫を凝らしている方っていらっしゃるのでしょうか。日本人だけでしょうか。それとも前橋の方だけでしょうか。与えられた環境と、限られた資源や土地で、最大限の商品を作るために創意工夫を凝らす力というのが備わるのでしょうか。脱帽です。
いずれにしても日本の生産レベルは世界のトップレベルということが窺えます。
はい、少量培地による土耕栽培というのが2つめのポイント。
ん?これはどうしたことでしょうか。
打ちひしがれて、がっくりとうなだれているバラたちがいらっしゃいます。
挫折組でしょうか?┐(-。ー;)┌ヤレヤレ
「挫折組じゃなくて、“ハイラック”っていうんだ。きちんと名前が付いているんだよ」
と教えて下さったのは同じく前橋バラ組合の吉原一郎さん。大澤組合長がお忙しくて留守がちな場合は、吉原さんが組合を取りまとめます。
あ、すみません。“ハイラック”ですね!
インプットしました(*`◇´*)ゞラジャ!
で、ハイラックって???c(゚.゚*)。。。
「“ハイ(high)=高い”、“ラック(rack)=台、棚”でしょ。だから、高いところにある台ってことなんだ。つまり作業をするときの高い台。いつも同じ高さで作業できるように、植物の生理と人の作業性を考えて考案された栽培方法なんだよ」
バラはどんどん上に↑上に↑伸びていく性質を持っています。そのとき、「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」という性質を持っていて、最も高い部分(頂き)から伸びていこうとします。
出ました4文字熟語。これは必須単語です。
つまり、ここで折り曲げた場合は、この折り節が最も高くなるわけですから、ここから新しい芽が出て上に伸びていこうとするのです。
一度ここで倒すと、生長点が横にした長さだけ低くなるので、作業がしやすくなるのです。
放っておいて、どんどん高くなってしまったら、作業するのに梯子も必要ですし、作業効率が悪くなります。そこで、生長途中で一旦折り曲げておいて、高くなりすぎないようにするのです。これをハイラック仕立て法といいます。
横に倒したこれらの葉は、より広い面積で太陽の光を取り込み、栄養になります。
これも全てを倒すわけではありません。1株から立つ3-4本の枝のうち、1本かせいぜい2本。全てを倒すと新芽の生長が鈍くなってしまい、逆効果となってしまいます。この辺りに腕の良さが出てくるのでしょう。
はい、ここで本日はもう一つ4文字熟語を学びましょう。
「採花母枝」(さいかぼし)です。
“採花母枝”とは出荷できる花をつける枝のことです。
コレのことですね→
↑この場合は1株に3本の採花母枝があることになります。
↑この場合は4本。
一つの株からたくさん花を切ろうと思って多くの採花母枝を仕立てれば、それだけ花が採れ、効率が良いかもしれませんが、実際には花が小さかったり、品質が劣ったりします。何より大きくて丈夫な花を1本採るということであれば、採花母枝は1本でいいのかもしれませんが、それではなかなかコストを回収するほどの利益が出ません。
そこで、採算ベースに乗りながら、品質の良いものを収穫するには、1株から3-4本くらいの採花母枝を仕立てるのが良いとされています。1年に採花母枝1本から通常7回花を切ることができます。
3本の採花母枝 × 7回採花/年間 = 21本/年間(およそ)
先述した「1年間に採れる本数が21-25本」というのは、つまりこういうことなのです。
こちらは点滴チューブ。
病院の点滴のようにポタポタと少しずつ養液(養分を混ぜた水)を流せるようになっています。
こちらはコーナーウィール・・・とでもいうのでしょうか。
基本的には、消毒の際このマシンで自動で行うのですが、
葉の裏や細かいところなど、機械では行き届かないところはホースをグイーンと中の方まで伸ばして手動で消毒をします。その時にコーナーに引っかからないよう、このウィールがあるのです。
う~ん、うちのオフィスにも掃除機をかけるときに欲しい^~^!
難しいボキャブラリーをたくさん詰め込んだところで、ちょっとひとやすみ。
3.11の震災以降、前橋バラ組合が抱えるジレンマについてのお話です。
・・・前橋のジレンマ・・・
前橋バラ組合ではCO2排出削減のためにヒートポンプを購入、国内クレジットの売買契約を某大手電力会社と交わし、CO2排出削減にも貢献しながら、冬場の品質を確保していたところでしたが、なんと今年の夏は東日本大震災で消費電力15%の削減目標が・・・。これも達成できない場合はペナルティがあるそうで、冬場は燃料を使用しないようにしていたのに、今度は電力を使わないように・・・だなんて(:_;) せっかく今まで燃料を使わないよう奨励されてきたのに、今度は電力までもですか。少しでもよいものを消費者の皆様にご提供しようという前橋は、ジレンマと闘っています。
閑話休題、前橋バラ組合のこだわりは生産だけに留まりません。
まず採花。
「我々は1日3回切ります。」
えッ??(゚∇゚ ;)エッ!? 3回も?バラの場合は多いところでも1日2回だったりするのですが・・・一体、何時に切るのでしょうか?
「6時、11時、16時の3回だよ」
と吉原さん。
え、6時って朝の6時ですか??
「そう、朝5時半から切る人もいるよ。みんな早起きでね。冬の日の出が遅い時なんかは、ニワトリを起こして働き始める人がいるよ(笑)」
な、なんと!∑(゜ロ゜)ギョエ!!
ニワトリより早起きだなんて、皆さん働き者です。
それにしても、3回に分けて切る理由は何でしょうか。
「すべての品種で切り前を揃えるためだよ。バラは品種によって、
1. 朝開くもの
2. 太陽光に反応して開くもの
3. 時間が経って開くもの
と大まか3つに分けられるんだ。それぞれの品種を見極めて、切るタイミングを図るんだよ。」
いや~、恐れ入りました。さすが観察眼が鋭い!
よく見ていらっしゃいます。ここまでできるのって日本人だけ?それとも前橋の人だけ?いずれにしても、いやぁ、参りました。
採花の次は「選別」。もちろん選別にもポリシーがあります。
「第三者による選別」です。
選別をする作業室には、前橋の生産者さんはほとんど足を踏み入れません。「良いものは良い、悪いものは悪い」と第三者による客観的な評価をし、選別を行うためです。その際に最も重視するのは「切り前を揃える」ことです。バラの場合は展開しているときのどのステージで切られたものかで評価が大きく変わるのです。
冷蔵庫をご案内くださる大澤会長
選別をする前もした後ももちろん冷蔵庫で保管します。
選別が終わったら次は梱包です。拝見していると・・・・[壁]д・)ジーーーー
なんだか完成させるまでの動きが少ない・・・。
業務を限りなく効率化し、必要以上に花を触ったり、動かしたりしていません。イメージ的には“サッ、サッ!”とやっているように見えます。動きの工程が、1作業に1つか2つかといったとてもスピーディで手際の良い印象です。
テープを早送りした「早い」というのではなく、工程数が少なく作業がスムーズなのです。
「そうなんだよ。花を動かせばそれだけ傷つくということだから、花への接触や移動は最小限に留めるんだ」と大澤組合長。
足元には水がこぼれないように作られたバケツを入れて、輸送中水が切れないように対処しています。
梱包の後は、市場への輸送ですね。“市場に届くまでが自分たちの責任”と輸送への取り組みも余念がありません。
選別の後梱包された商品は、速やかに台車に積まれ、その台車ごとトラックに積まれます。
それも作業場と繋がる扉からではなく、こちらの別の扉を開けると、搬出専用のトラックのプラットフォームになるのです。
う~ん、トレビア~ン♪
さすが、花の女王であるバラを傷つけないために、全ての過程において仕組み作りがなされているのです。
そして最後に、消費者の皆さんのところできれいに咲くようにした“咲き切る工夫”。
「まずは品種特性を知ることだね」と吉原さんはおっしゃいます。
もともとの品種による花保ちの差もありまし、開かせて出荷した方が良いもの、少し硬め(ツボミに近い状態)で出荷した方が良いもの。それぞれの品種に合わせた切り前を調整します。
そして水揚げはここ前橋の“きれいな水”で!
切ったらすぐに前橋の奇麗な地下水に浸けて水揚げを行います。
実はその「すぐに!」がポイントなのです。どのくらい「すぐに」か?
バラは切られた瞬間に、切り口から空泡が入ります。この空泡がどんどん上にあがってきて、ちょうど首のところに来ると、ベントネックなどの症状を引き起こしてしまいます。
この茎の中の空泡がたくさん入り、水が入っていない部分が長かったりすると、ベントネックになりやすかったり、花保ちには大変悪影響を及ぼしてしまうのです。ですから、いかに短くして、水揚げをするかが勝負なのです。この勝負次第で、お客様のところでの花保ちに変わってきます。
それにしても地下水を使う必要性はあるのですか?
「地下水はカルキ分のない自然の水でしょ。植物にはいいんだよ」
何を隠そう、前橋の水はおいしいと全国でも有名なのです。
赤城山麓の水がペットボトルでも販売されていますが、その昔ペットボトルが普及する前に、缶コーヒーならぬ缶ウォーターが全国に先駆けを発売されたのもこの前橋市の水なのです。
そのようなおいしい水をたくさん飲んだバラは幸せだわ~+。*。+圉+。*。+☆□★+。*。+圉+。*。
ここまで仕組み作りができている前橋バラ組合の農業は、市場においても高い評価を得ていて、当然のように若い世代にも魅力的に見えるものです。
ですから魅力的な農業を実現している前橋バラ組合では、20代から40代前半を中心とした次世代が続々と育っています。
皆さんとても仲よし。全員で足並みを揃えていこうという協調性のある方々なのです。
それにしても、そもそも大澤さんがバラに出会ったきっかけは何だったのでしょうか。
昭和41年に農業高校を卒業された大澤さんは、その際に進路相談の先生から派米(米国に派遣)農業研修生制度というのがあるが、行ってみないかと言われました。米国での農業研修制度がとても魅力的に感じ、迷わず申し込んだといいます。研修制度の中でもいろいろとコースがあり、花の中でもバラコースを選びました。
“花では食べていけない。花を作る人は変わり者”という論調がまだまだ強かった時代にもかかわらず、そこで花を選んだ理由は何だったのでしょうか。
「先輩も何人か花をやっていたし、食べられないとは思わなかった。何よりやっぱりきれいだしね。
食べられるか食べられないかよりは、花が好きだった。だから花なんだよ。」
何年行ってらっしゃったのですか?
「2年。」
きょえ~w(゚o゚)w ワオー!
2年も米国(オレゴン州)に行ってらっしゃったなんて、それはもう英語ペラペラですね。バイリンガルの花農家さんて、かっこいいな~。
「米国に行ったら行ったで、それも大変。楽しかったけどね。真珠湾攻撃が記憶に新しい世代がまだまだ多くいた時代だし、有色人種差別も普通にあったからね。街で突然怒鳴られたりもしたよ(笑)」
その時に感じたことは?
「いろいろ経験を通して覚えたよ。欧米の雑誌を見ると、住居や花の写真などがたくさん載っていてね。高度成長期にあった日本も、いずれこうなるだろうと思ったんだよね。
日本が豊かになったときに、食べ物はお腹いっぱいになったらそれ以上はいらないけど、花の需要には天井がなくて、1人が2倍が欲しいといえば、純粋に需要も2倍になるわけでしょ。そこに花業界の将来性があると若いなりに思ったんだよね」
豊かになりつつあった日本を肌で感じていた大澤組合長は、生活文化面で先を行っていた欧米に日本の将来を重ね合わせていたのかもしれません。
そうして2年の研修を終えて帰国された大澤組合長は、昭和44年いよいよ自らバラの生産を開始します。
「ところが、自分でやってみると大変だったのなんのって・・・」
ハウスを建てるのにも十分な資金がなく、土地を売ってまで資金を集めたといいます。
「米国で仕事をしているときは、何(WHAT)をどのように(HOW)行うかは教えてもらえましたが、自分で農場を始めるときはWHATから決めなくちゃならないでしょ。“何をするか”から考えるのだから大変なんだよ。」
施設を建てたら今度はバラ苗の入手が困難!
当時は今のように簡単にはバラの苗は手に入らなかったのです。
「最初に建てた施設600坪を埋めるのに、2年かかったよ。当時のバラの先輩などに譲ってもらったりしてね。仲間や先輩、行政に恵まれて・・・みんなに面倒を見てもらったよ」
と謙虚に当時を振り返ります。
これが大澤組合長のバラ作りの原体験となりました。
こうして昭和44年に個人で始めたバラ生産は、45年に仲間を迎え、50年代には上向きに伸びていきました。55年には3人で1,800坪の施設を建て、共同出荷を始めました。(東前橋温室バラ組合設立)
56年以降、さらに仲間が増え、現在は12名にて約13,000坪、およそ70品種のバラを出荷するまでになりました。
広い圃場で皆さん作業中でしたので、全員集合とはいきませんでしたが、お集まりいただいた前橋バラ組合の方々で集合写真です。なかなか若い方が多いでしょ♪
「大切なことは助け合い。自分だけ良ければいいのではない。一人でできることは限度があるが、協調の精神を忘れずにみんなでやれば、相乗効果で個人の力の純粋な総和よりも大きくなる。コミュニケーションを取って自分の持ち場は自分で守る。これが“協同”の基本だよ」
前橋バラ組合の基本精神です。
大澤組合長にとっては「バラそのものが生活であり人生」。“バラ色の人生”とはこのことを指すこともあるのでしょう。
ろ:老農 船津伝次平(ふなつでんじべい)
船津伝次平とは、ココ前橋市出身の篤農家です。「明治の三老農」の一人で、従来の日本の伝統的な農業に、西洋の近代農法を取り入れ、この農法は全国に普及していきました。
なんだか赤城に流れる農業の才腕を感じます。
前橋バラ組合の格言
・ 人間よりも遥か前に生まれ、悠久の時を生きてきた植物は、ほかならぬ土に根を張ってきた。
土が持つ自然のパワーを利用し、やはり土耕栽培が鉄則と心得よ。
・ 土耕栽培で全国でも記録的な前橋の猛暑でも品質を維持すべし!
・ 少量培地で側根を発達させるべし。収量が上がり、栽培効率アップします。
・ 採花は1日3回。品種特性をよく観察して、それに合わせて採花のタイミングを図るべし!
・ 赤城の太陽と土と地下水を有効活用すべし!
・ 出荷作業は最少工程数にて!触れば触るほど、バラは傷つく!
スムーズな仕組み作りを実現すべし。
消費者へひとこと
毎日バラのある生活をしてほしいけれども、なかなかそうもいかないご事情もあるでしょう。せめて、記念日にはバラを使ってみてください。家の中でふと目をやるとそこに花がある、そんな生活をしてみてください。
お花屋さんへひとこと
店頭に並ぶ花は日々ご覧になっているかと思いますが、生産現場を知らずに、販売のときにご苦労されるお花屋さんはたくさんいらっしゃると思います。私たちはオープンですので、いつでもいらしてください。
今回学んだ四字熟語
「土耕栽培」(どこうさいばい)・・・人工培地ではなく、土に植えて植物を育てる一般的な栽培方法。
「置換容量」(ちかんようりょう)・・・土が持つ保肥パワー。
「少量培地」(しょうりょうばいち)・・・プランターなどの限られた容量の培地、またはそのような培地で行う栽培のこと。バラの場合は栄養を吸収する側根が発達しやすくなるため、収穫効率が良くなることが期待される。
「頂芽優勢」(ちょうがゆうせい)・・・その枝で最も高いところから上に伸びていくという植物の特性。
「採花母枝」(さいかぼし)・・・収穫用の花を付ける枝のこと。
「前橋バラ組合」・・・群馬県の赤城山の麓、前橋市において、全国でもトップレベルの品質のバラを作る生産者の集まり。次世代が育ち、技術も協調性もある精鋭生産グループ
・・・あ、これは四字熟語じゃなかった^_^;